井戸水

「もうすぐお祭りだね」
学校から帰る道すがら、栄子ちゃんがそういった。
「なんでわかるの?」
私が聞くと、隣にいたあやちゃんが
「だって、もう7月だよ」と答えた。
私はあやちゃんが苦手だ。
なんでも知っていて、すぐに答える。
「金魚すくいのおじさんが、今年も来たの」
栄子ちゃんは、優しく私の質問に答えてくれた。
「あっそうか」
ようやく私も納得した。
栄子ちゃんの家に、私も遊びに行ったことがある。
広すぎて、怖いくらいだ。
かくれんぼをしたとき、私は自分から出てきてしまった。
井戸もある。
お祭りになると、金魚すくいのおじさんは井戸水をもらいにくる。
金魚が元気になるんだそうだ。
そうか、お祭りだ。
私は嬉しくなった。
早くおかあさんに浴衣を出してもらわなくては。
おとうさんにお小遣いをもらわなくては。
「ねえ、聞いてるの?」
あやちゃんが怒り出す。
ああ、だからあやちゃんはいやだ。