Idea
02ten

こんなパン屋はどうでしょうか
2016/12

次の仕事先に向かう道すがら、昼食をとっていないことに気が付き、パン屋に入りました。
そのパン屋には、小さなカフェスペースがあるのを知っていたからです。
パンを食べながら、私は買い物客を眺めていました。
焼きたてのパンを前に、悩んだり、さっさとトレーに入れている客、さまざまです。
いい香りが漂っています。
荷物を持って、その上、トレーのパンをレジまで運ぶのが大変そうな人もいます。

自分がもし依頼を受けたとしたら、このパン屋のレイアウトをどんなふうに変えるだろうかと考えました。
ふと、トレーとトングではないものを客が持ってパンを選ぶ姿が目に浮かびました。
私の頭の中に、新しいパン屋がポンと浮かびました。
本当に小さな店なのに、その場で食べるスペースまで併設された、不思議なパン屋です。

私の頭に見えたのは、二階建ての狭い店です。
二階でパンを焼き、一階で売っています。
これまでは、陳列してあるパンのそばを客が通るのも一苦労でした。
手を伸ばしてパンを取るのもたいへんです。
ただ、パンが本当においしいので、不便もいとわず客はやってきています。

新しく改装した店に入り、客がまず手にとるのは、トレーとトングではなく、端末機です。
パンの形をした洒落たもので、これが欲しいという客もいるようです。
客は、店を回り、パンを品定めしては、端末機に番号を入力します。
これまでと違うのは、焼きたてのパンはそれぞれ一個だけ飾られていることです。
番号がついたパンを客はちょっと触ったり、いい香りをたのしんだりしています。
空中を遊泳しているように吊り下げられているパンもあります。
パン食い競争の思い出にひたる人もいます。
触ってもいいのですが、もちろん、食べることはお断りしています。
パイやタルト、ピザ系は皿に載っていて、食べてくださいと言わんばかりに、客の食欲をそそります。
パンの置き場が減ったため、買い物が楽になりました。
カフェも併設され、焼きたてフランスパンをその場でむしゃむしゃ食べるのは、なんともいえない幸せです。

パンを買う手順はこうなります。
本物のパンを見ながら、客は端末機に番号を入力します。
パンの名前と写真、値段が表示され、客はほしい個数を入力します。
客がやることは、パンの番号と個数を入力するだけです。
手を伸ばしてパンをとったり、バッグや荷物をもちながらバランスよくトレーをもつ必要はありません。
しかし、実際のパンを見て買おうかどうか決めることができます。それはとても大事なことです。
客がレジに並んだ時には、端末からの指示で、レジ脇のトレーには客の注文のパンが並んでいます。
支払いをするまでは、変更も可能です。
買いすぎたり、あれとこれとどちらにするか、悩んだりすることもあるものです。

トレーとトングの代わりに、パン型端末機を片手にパンの品定めをする、そんな店が、いつか現れるかもしれません。
パン屋で大事なのは、パンの取り方ではなく、おいしいパンに出会うことですから。