Idea
02ten

がらくた村で夏休み
2002/10
捜しものはつまらないけど、宝探しはわくわくします。
骨董屋、リサイクル店はのぞくだけでも面白いものです。
目的がないというのも、案外いいのかもしれません。

いつまにか、自分の家にものが増えてしまいます。
引越しした方は、経験があるかと思います。
どうして我が家にこんなに物があるのかと、びっくりするくらいです。
リサイクルショップに連絡をとっても「これは引き取りはしません、ごみとして料金をもらって回収します」
と言われたこともあります。
結局、ごみになってしまいました。
生きていると、買い物好きな人でなくても、いつのまにか物が増えていきます。
自分には不要になってしまっても、他の誰かに役立てたら、とつい思ってしまいます。
リサイクルショップや骨董屋がそのまま村になっていたら、と考えてみました。

五月の連休や夏休みに、行ってみたい村があります。
村の集落には、家が並んでいます。
「ごめんください」
声をかけて玄関に入ります。
「はあい」
奥で声がします。
「どうぞ、ごゆっくり」
私は玄関で靴を脱ぐのも忘れて、靴べらをながめています。
「わあ、なつかしいな、鯨のひげだ!」
連れの友人は、さっさと家の中に入り込み、座り込んで、何かを手にとっています。
そう、ここはがらくた村。
送られてきた不要な品物が、一軒の家の中に、まるで、以前からあったかのような雰囲気で置いてあります。
引越しでいらなくなったもの、両親がなくなって処分しなくてはいけなくなったもの。
一個一個送られてくるというよりは、まとめて運ばれてきます。
村の、誰も住まなくなった空家に、トラック一杯の物が運び込まれます。
誰かが住んでいるかのように見える家が、実は店なのです。
店番のおばあちゃんは、まるでそこに住んでいる人みたいです。

一軒一軒が、かっこよく言えば骨董屋さん。
村を訪れる人は、あちこちの家でショッピング。
「わあ、すごいおもちゃをみつけた!」
古い魔法瓶のデザインに、驚く若い人。
これは、というような品物には、さすがに値札はついています。
無料のものもあります。
「どれも、売り物ですか?」
尋ねる人に、売り物ではないおばさんは頷きます。
「はい、そうですよ。この家のものは、どれでも三点お持ち帰りできますよ、入場料をいただきましたから」
「お茶はいらんかね。暑いから、冷たい麦茶のほうがいいかねえ」
おばさんの言葉に、私は頷きます。
「麦茶、ください」
友人は、私のことなど忘れたみたいです。
引き出しを開けては、畳の上にあれこれ広げて迷っています。
涼しい風が、通り過ぎていきます。 暑いはずなのに、暑苦しくはありません。
夏休みだなあと、私は柱に背をもたせて外を眺めます。
入道雲が、芝居の書き割のように見えています。
誰が植えているのか、庭にミニトマトが成っています。

骨董屋の息子から聞いたことがあります。
「アメリカって、やっぱりおもしろいぜ。お前も行けよ」
「何が面白いのよ」
「あのな、このあいだ、親父の知り合いが話してくれたんだよ。
一軒の家ごと、中身を処分するんだ。
全部コンテナに入れて。
広い場所に、コンテナがずらっと並んでいるんだ。
それがアメリカの骨董屋。
コンテナの中に入ってみても全部はわかんない、だから、ほとんど勘。
コンテナごと買っちゃうんだ。
三十万で買ってすごいのが一点あったら、もうそれで大丈夫。
ほしいものを買ったら残りはまた、集めて売る。
売るっていうか、コンテナの残りをまた引き受けてくれる業者があるんだ。
なんていうのかな、ひとつひとつ丁寧にという感覚じゃあないかもしれないけど、どれも捨てない!ていうのがおもしろいよなあ」

あいつに話してみたい。
「今度、日本に帰ってきたら一緒にいかない?
面白いとこあるんだ。
日本のは、コンテナじゃなくて、田舎の家だよ。
宝物探しながら、冷たい麦茶飲むんだ。
最高だよ」