Novel(百物語)
02ten

おもてなしの極意

私の知り合いで、おいしいお好み焼きを作ってくれる人がいる。
その人のアパートに行って、「おなかすいた」と言うと
お好み焼きが出てくる。
言葉を発してから、きっかり十五分。
あつあつで柔らかいお好み焼きが、私の前に出てくる。
はふはふしながら、私は一分くらいで食べてしまう。
おいしい。
でも、お好み焼きは一つしか出てこない。
もっと食べたいと何度お願いしても、無駄だ。
「これは一つしか作れないのよ」
その人は、大真面目な顔をして言う。
「だって、私もそうやって作ってもらっていたから」

分量を教えてもらい、私も作れるようになった。
友人が来て、「おなかすいた」と言うと、私は「わかった」と答え、小麦粉と卵と水を混ぜる。
キャベツを刻む。
運よく豚肉があったら、最初にフライパンで焼く。
その上に材料をすべて入れる。
フライパンに蓋をする。
弱火で片面を五分焼く。

その間に私は友人とおしゃべりする。
お茶を淹れる。
ふたりでお茶を飲む。
友人は、面白い話を教えてくれる。
ふたりで笑う。
友人はトイレに行く。
時間が来たら、私はお好み焼きをひっくり返す。
今度の五分で、私は小麦粉と卵と水を混ぜたボールを洗う。
豚肉を切った包丁とまな板を洗う。
トイレから戻ってきた友人は「まだ?」と言い始める。
「もうすぐ」と私は言って、フライパンの蓋を取り、お好み焼きを友人に見せる。
「おおっ!」と友人はわくわくし始める。
「あたしだけで食べていいんだよね」
「もちろん」
きっかり五分過ぎたら、私はお好み焼きを皿にのせる。
中濃ソースとマヨネーズと削り節をたっぷりかけ、
「さあどうぞ」と私は友人の前に出す。

友人は一分くらいで食べてしまう。
「ねえ、もう一枚作ってくれない?」
そう頼まれても、もう作る気にはなれない。
キャベツや卵があっても、駄目なものは駄目なんだ。
「作ってあげるね」
その気持ちがもうなくなっている。
不思議なんだけど、ほんとなんだ。
自分が作ってもらった時は、「ケチだな」と思っていたのに、作ってみるとよくわかる。
友達が言っていたことが、「ほんとだ」と思う。

だから教えてあげる、分量を。
「おなかすいた」
そういう友達に作ってあげてね。