鯛焼きが言ったのかな
「そっくりなんだ、りほに。」
珍しく、彼が興奮している。
「なにがかなあ」
そう思いながらも、理帆子は、鯛焼きを食べるのに夢中。
ここの鯛焼きは、おいしい。
理帆子はそう思う。
買ってくるたびに、そう思う。
買ったのは、理帆子ではなく、さとしだったけれど。
「何かに似ている。
でも、思い出さないんだ。
悔しかった。
お茶飲んでも、だめだった。」
さとしの話は、まだ続いている。
「お茶が、思い出すのに効くのかなあ」
そう思いながら、理帆子は鯛焼きの二枚目を食べようか、思案する。
「家に帰ったら、わかったんだ、おまえのこと思ってたから。
りほの頭なんだよ。
今度連れて行くから、見てみろよ。
おもしろいよ。」
やっぱり食べよう。
そう決心して、彼女は二枚目の鯛焼きに手を伸ばす。
「おまえ、本当によく食うなあ。」
彼は、感心して眺める。
「俺の分、残してある?
二枚ずつだからな。」
興奮して彼が話してくれたもの。
それは、和紙でできたオブジェ。
「何でできているのか、ぜんぜんわかんなかった。」
と、さとしは言った。
店主に、尋ねたらしい。
キーウイのつるを円筒状の形にして、そこに漉いた和紙をかけたもの。
柿渋がかけてあるから、濃い茶色。
さとしは、理帆子に説明する。
オブジェとして、そのまま、壁に吊り下げられていることもある。
軽いから、画鋲と釣り糸があれば大丈夫。
彼が目にした時、そのオブジェは花が活けてある花瓶の真上にあった。
レンギョウ、菜の花が早い春を感じさせる。
明るい黄色の枝の先に、柿渋の筒が浮いている。
花とオブジェが一体になる。
「小さな花瓶なのに、すらっと伸びやかにみえるんだよ。ああいうの、いいよね」
そのオブジェを頼んで下ろしてもらい、彼はあれこれ触って楽しんだらしい。
理帆子は、途中から機嫌が悪くなった。
なんのことはない。
彼女の頭の、てっぺんにあるおだんご。
気に入っている髪形を、あいつ茶化しているんだよね。
「言っときますけどね。あたしは、少しでも背を高く見せようとしているんじゃないからね。これ、好きなんだもん。」
彼女のお気に入りの髪型と、よくわからないオブジェを一緒にするなんて、さとしは最低だ。
彼女の頭は、怒りを表に出そうと試みる。
しかし、おなかに入って、泳ぎ始めた鯛焼きが、まあまあと彼女をなだめる。
「面白いかもしれないじゃない、理帆子ちゃん」
彼女は頷くが、その声が鯛焼きだったのか、さとしだったのか、よくわからない。