Novel(百物語)
02ten

北欧の空は遠く

「お茶を飲みに行ったら、ぜひ見てください。たぶん、入り口にあります。はりねずみ、松ぼっくりで作ってあるんです。」

後輩からメールが届いた。
その店を教えてもらって、何度か足を運んだ。
だが、店内においてあるものなど、気に留めたことはない。
椅子に腰をおろし、やれやれと心の中でつぶやく。
口に出したら、爺くさい。
そう信じている。
これまでなら、ここでタバコを一服なのだが。

俺は、タバコをやめたわけではない。
やめようとは思っていない。
しかし、この店では、吸ったのと同じ気持ちになれる。
やれやれと心の中でつぶやいて、一服していた習慣が、タバコではなく、茶に変わった。
それがなんとなく楽しい。

「ハリネズミがいるんですか」
店主に直接聞いてみる。
探すのは面倒だ。

「はい。」
店主がこたえた。
「みなさん、お好きです。
かわいがってくださいまして。」

どうせ、女の子が好きな類のものだろう。
そう思って、見に行った。
後輩のメールのとおり、入り口にあった。
どうも、俺は女の子に趣味が近いらしい。
いっぺんで気に入ってしまった。
かわいいじゃないか。

「売ってほしい。」
店主にそう頼んだのだが、しっかり断られてしまった。
「ほしいとおっしゃるお客様のために、買いに行きたいんですが。ちょっと遠いんです。
それに、売っていた店が、今もあるかどうか。」

タバコをやめて、金をためて買いに行こう。
デンマークだという。
北欧か。
いいな。
短い夏の、青い空。
来年の夏の計画は決まりだ。

計画は、三分間で終わった。
店を出た。
出てすぐ左に、タバコの自販機がある。
コインを入れながら、別の考えに変わった。
店に行ったら、その時だけ、俺のはりねずみにすればいい。
どうせ、俺の部屋に置いても、一年もたてば、迷子になるだけだ。

空を仰ぐ。
きれいな青空だ。
この町には、まだ空がある。
高層ビルが少ないせいだろう。

北欧の空は、まあ、いいさ。