Novel(百物語)
02ten

雛祭り

仕事の帰り道、大きな大きなぼんぼりを見つけました。
雛の季節は終わったけれど。
あれは、まさしくぼんぼりでした。

そういえば、以前にも目にしたことがありました。
深夜の道路工事現場で。
丸いあかり、白く輝いています。

二mほどの長い柱の先に、ふっくら丸い電気の傘。
ちょっと心がなごみます。
とはいえ、近づくと、強く白い光に目がくらみます。

実を言うと、今日は落ち込むことばかりでした。
私の仕事の段取りが悪いと、上司から、散々いやみを言われました。
言い訳はしなかったけれど、原因は取引先の営業のせいです。
なんで、あんなやつのミスを、私がかぶらなくちゃいけないんだろう。
そう思いながら聞いていたせいか、
「なんか態度悪いよね。」
と、最後に言われてしまいました。

おばさん社員にも、いやみを言われました。
「あら、知らないんだ。びっくりねえ。若いからしょうがないか。」
じゃあ、あんたがなにを知っているの?
結婚して、子どもがいて、仕事していて、何でもできるって思っているんじゃない?
仕事のトラブルだったはずなのに、相手の人格までも否定したくなります。

心の中に、とげがたくさんあります。
ちくちくします。
会社の人だけじゃない。
世の中の人全員が嫌いになることがあります。
男の人がわけもなく、人を殴ったりするのは、こういう時かもしれません。

今日はそんな日でした。
帰り道、ぼんぼりを見つけたのです。
ぼんぼりの光の中に入りたい。
強くそう思いました。
光に吸い寄せられる虫のように。

私の心の、醜いとげを隠すことができそうです。
いえ、白い光を浴びて、とげは溶けていくかもしれません。
そうなったら、どんなにいいかと思います。