かぐや姫が帰ったら
帯を、掛け軸に見立てる。
なるほどね。
金色がかった黄土色の帯。
帯の真ん中に、こげ茶の絣の布。
古布だろうか。
その上に、ほおずきがのっている。
葉脈だけになったほおずきは、レース細工のようだ。
ふわっと、布の上に浮かんでいる。
同じ帯で、ちがう掛け軸。
こちらには、葉っぱがついている。
銀でできたブローチ。
いや、よく見たらクリップ。
小さな木片も。
茶、と焼印がおしてある。
なんだか帯止めみたいだ。
きれいな色の組紐がついている。
羽織りの紐だと聞いた。
真田紐というらしい。
帯を飾るなんて。
考えたこともなかった。
以前、雑誌で見たのは、テーブルの真ん中に、帯が飾ってあった。
なんだか、外国人の考える東洋趣味。
すぐそう思ってしまった。
ランチョンマットが四つ。
ワイングラスにきれいな洋皿。
雑然とした我が家のテーブルとは大違い。
あんなの無理。
だから、私には関係ない、そう思っていた。
ああ、これだ。
店にきて、そう思った。
これならできそうだ。
いや、そうしてあげたい帯がある。
形見分けでもらった、叔母の帯。
着物を着ないから、箪笥のこやしでごめんね。
そう言い訳しているが、実は、けっこう汚れている。
使えるような代物じゃない。
死んだ叔母に、謝っているんだか、もう少しましなものをちょうだい、
そうおねだりしているのか、自分でもよくわからない。
あんなふうに飾ってみよう。
どうせ汚れているんだから、
思い切って半分に切ってみよう。
私をかわいがってくれた叔母だった。
家に遊びに来るたびに、絵本やお菓子を買ってくれた人だった。
大人になったら、うるさい人としか思えなくなっていた。
顔を見るたびに、「あんたは」とお説教ばかりする。
いつしか叔母がうっとうしくなった。
足は遠のいた。
「気に入ってくださいましたか?」
店主が、私に声をかけた。
「かぐや姫の絵柄がありましてね。
綴織のそれはきれいなものでした。
お客様の古い帯です。
かぐや姫の部分だけを表装して、屏風になさいました。
その残りをいただいたんです。
ここに、竹藪が少し残っているでしょう」
かぐや姫が月に帰ってしまったあと、
おじいさんは竹やぶに行ったのだろうか。
かぐや姫を思い出す竹やぶは、嫌いになったのだろうか。
それとも、以前のように、竹を切って暮らしを立てたのだろうか。
私は竹やぶを覗き込む。
金色の光の中で、青みがかった竹がそよいでいる。