Novel(百物語)
02ten

彼の嘆き

きみと、作れたかもしれない家庭
作りたかった家庭
僕は想像する
きれいなきみ
そのそばに僕がいる
きっと、子どもたちもたくさんいるだろう
本当は、子どもたちはどうでもいいんだ
こんなこと言ったら、きみは怒るかもしれないけど
元気に育って、自分たちで生きていけるさ
僕が想像するのは、きみとふたりの生活
でも、ないのかなあ
いや、まだチャンスはきっとあるはず

夕暮れ時は
すこし悲しくなる
夕ご飯のいいにおいがする
おなかがすいているし
なによりきみがいない

スーパーの近くに来た
自転車で来た女の人
仲間を連れた女の人
小さな子どもを連れた女の人
本当に、ここは女の人が多い

バギーの中にいる赤ちゃん
大人はどうしようもないけれど、赤ちゃんはかわいい
どうして子どもはかわいいんだろう
犬や猫、ライオンや白くま
みんな同じだ
こどもはみんなかわいい
テレビの特集を飽かず眺めている人の多いこと
でも、動物の番組よりも、人間のあかちゃんがたくさん出ている番組がいいんだけどな
なぜ、そんな番組作らないんだろう
人間も動物なのに
哺乳類は、どれもみんな哺乳類の赤ちゃんが好きなのに
犬は赤ちゃんが好きなのに

きみが住んでいる場所も知っている
きみが選んだ相手も知っている
どうして僕がそこに住んでいないんだろう
ちょっと遅かったから
きみを知るのが

公園で会ったとき
きみは絶対ぼくのことが好きだったはず
僕もすぐにきみが好きになった
きみがもっと自由な立場だったら
もっともっと仲良くしたのに

きっといま、僕は、とぼとぼ歩いているように見えるんだろう
ついこの前までは
風来坊のかっこいいやつと思われていたのに
結局、野良犬さ
ひとりはいやだ
きみといっしょにいたいよ

グッチに会った
いやに元気がいい
きっとおいしいものをいっぱい食べてきたにちがいない
近くの喫茶店「グッチ」はみんな優しい人ばかり
あいつ、いいなあ
あそこの人たちに可愛がられているもんなあ
自分でもグッチって僕たちに呼ばせている
あそこの人たちは違う名前で呼んでいるのに
僕たちにはわからないとでも思っているのかなあ
猫のほうが犬より頭がいいと思っているんだ
悔しい
だから、僕の仲間はグッチを追いかける
でも、僕はあいつはいい仲間だ
だって、僕がちょっと本気出したら死んじゃうような奴なんだから
強いはずの僕が、君のことを考えると、本当に弱虫になる

きみに逢いたいよ