九州大学と南風病院、n-noseでがんの早期発見の臨床研究開始
平成28年4月8日の日本経済新聞によりますと、
南風病院(鹿児島市)と九州大学は線虫を使用したがん早期発見の臨床研究を始めます。
臨床研究では、がんと診断された人の尿を収集します。
対象は胃がん50人、大腸がん50人、膵臓がん30人、胆管がん30人、食道がん30人の計220人です。
調査対象は、早期から進行した症状までと、幅広く調べます。
九州大学の倫理審査委員会で承認が得られ次第、南風病院の患者を対象に約2年間をかけて研究する予定です。
線虫を使い、尿によるがんの有無を識別する研究に関しては、
九大理学部ニュースに詳しい説明があります。
2015(平成27年)年3月25日の九大理学部ニュースによりますと、
理学研究院 生物科学部門の広津崇亮助教らの研究グループは、
線虫の嗅覚を利用し、尿でがんの有無を識別できることをつきとめました。
本研究成果は、米国オンライン科学誌PLOS ONEに掲載されました。
日本でのがん検診受診率は約30%にとどまっています。
手軽で安価、しかも高精度に全てのがんを早期に診断できる、がんスクリーニング技術の開発が望まれていました。
がん患者には特有の匂いがあることが臨床現場では知られています。
がんの匂いは、血液、尿、呼気など様々な物に含まれています。
がんの匂いという観点から、広津崇亮助教らの研究グループは線虫C. elegansに着目しました。
線虫は犬と同程度の種類の嗅覚受容体を持っており、嗅覚の優れた生物です。
線虫の匂いに対する走性行動(好きな匂いに寄っていく、嫌いな匂いから逃げる)を利用し、がんを発見する可能性
を追求しています。
研究グループは、採取が簡便な尿に注目しました。
まず、がん患者の尿20検体、健常者の尿10検体について線虫の反応を調べたところ、全てのがん患者の尿には誘引行動を、
反対に全ての健常者の尿には忌避行動を示すことがわかりました。
また、ステージ1の早期がんにも反応したことから、早期がんを発見できる可能性も示唆されました。
次に、本当に匂いに反応しているのかを確認する為、嗅覚神経を破壊した線虫で実験しました。
嗅覚神経を破壊した線虫では、誘引行動は起こりませんでした。
線虫の嗅覚神経を調べた結果、がん患者の尿に有意に強く反応している事も確認できました。
線虫の嗅覚を用いたがん診断テスト(n-nose)の精度を調べるために、
242検体(がん患者:24、健常者:218)の尿について線虫の反応を調べました。
その結果、がん患者をがんと診断できる確率(感度)は95.8%、
健常者を健常者と診断できる確率(特異度)は95.0%とどちらも高い確率でした。
特に感度は圧倒的で、同じ被験者について同時に検査した他の腫瘍マーカーと比べて極めて高い確率でした。
従来の腫瘍マーカーは1検体数千円以上かかります。
一方、線虫の嗅覚を用いたがん診断テスト(n-nose)は数百円でできるため、コスト面でも優れています。
さらに興味深いことは、がん患者24例中5例については、尿が採取された2年前の時点ではがんと診断されませんでした。
しかし、線虫の嗅覚を用いたがん診断テスト(n-nose)でその尿を検査すると、高い確率でがんを発見できています。
すなわち、従来のがん検診では見逃されていた早期がんを発見できる可能性を示しています。
実際、がん患者24例中12例はステージ0、1の早期がんでしたが、すべて正しく判定できています。
現時点で、線虫の嗅覚を用いたがん診断テスト(n-nose)は全てのがんを検出できる利点がありますが、
がん種を特定できない欠点がありますが、
研究グループはがん種を特定できる技術の開発に向けて解析を進めています。