阿久根市の「磯焼け」対策はウニの生息密度管理
阿久根市の広報誌、広報阿久根 2012年8月号では、「磯焼け」について特集しています。
阿久根市水産林務課水産係では、磯焼けの原因としてウニを特定し、ウニの密度管理を行なっています。
漁業者、北さつま漁業黒之浜支所、地域住民が協力して、藻場を守る活動を進めています。
磯焼けとは、東京海洋大学海洋科学部准教授 藤田大介氏(海洋政策研究財団 ニューズレター第220号
「磯焼け対策ガイドラインとその後の動き」)によりますと、もともとは、伊豆半島東岸の方言です。
その地では、藻場の顕著な衰退を「磯の焼け」、藻場が衰退した岩礁を「焼け根」と呼んでいました。
海の中が「焼ける」という表現は、草原上のテングサ場や森林状のカジメ海中林が衰退し、
その残骸と石灰藻が海底に残り続ける様子を端的に描写した言葉といえます。
北の海のコンブ場の衰退も含め、現象としては古くから認められていました。
学界では、静岡県が1885年に問題提起したことを始まりとしています。
2007年に水産庁から出された「磯焼け対策ガイドライン」では、磯焼けを「浅海の岩礁・転石域において、海藻の群落(藻場)が
季節的消長や多少の経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」と定義しています。
全国的に磯焼けが深刻な問題となっていますが、阿久根市の沿岸地域も例外ではありません。
ただ、海の岩場に海藻などが生えていない状態を見て、すぐに磯焼けだと判断することはできません。
一般に、海藻などが生い茂る時期は、2月〜5月下旬であると言われており、夏場に海藻類が生えていない状況が即、磯焼けだとは
限りません。
海藻が群生している藻場では、たくさんの生き物が暮らしています。
藻場は、さまざまな生き物たちの隠れ家や住みか、産卵場、稚魚などの保育の場です。
藻場が磯焼けの状態になると、回復するのに長い年月を要すると言われています。
磯焼けの原因としては、これまでは「山林の伐採に起因する出水(淡水流入の影響)」と考えられていました。
しかし、近年では「海藻などを食べる生物による食害」による影響が磯焼けの大きな要因とみられています。
水産庁の「磯焼け対策ガイドライン」(2007年)では磯焼け対策の流れを8段階でまとめています。
1.磯焼けの感知
2.藻場形成阻害要因の特定
3.回復目標の設定
4.阻害要因の除去・緩和手法の検討
5.要素技術の選択
6.要素技術の実施
7.モニタリング調査
8.目標達成の判定とフィードバック
阿久根市では、磯焼けしていない、つまり海藻が生えている場所を調査したところ、以下の場所であることがわかりました。
1.漁業者が積極的にウニ生息の密度管理をしている場所
2.漁業者が漁場として頻繁にウニを獲っている場所
3.水深8mより深い場所
4.海の底から湧水(わきみず)が出ている場所
これらの場所の共通点は、磯焼けしている場所と比較して、ウニ類の生息数が少ないことでした。
つまり、ウニが海藻を食べてしまうために、磯焼けが発生している可能性が考えられます。
そこで、ウニを採捕することが藻場の再生につながると考え、実験を行いました。
しかし、残念なことに、単にウニを徹底的に採捕しても藻場は回復せず、イソギンチャクなどがビッシリと岩場を覆ってしまうだけでした。
次に、ウニの採捕方法を変更し、岩の下に隠れているウニは採捕せず、岩の表側にいるウニだけを採捕してみました。
すると、わずか1、2年の短い期間で広範囲に磯焼けを改善することができました。
ウニを採捕した面積以上に、磯焼けが回復した阿久根市のこの実績は、磯焼け対策の優良事例として注目されています。
海藻を食べる生き物の生息密度を管理することにより、広い範囲の藻場を回復できることが現在明らかになりつつあります。
以前は、ブロックや岩を海中に設置することで海藻を繁茂させる手法が、一般的に行われていました。
このような土木的手法は、多額の事業費がかかり、また、設置後の管理も必要です。
残念なことに、多くの場合、効果が持続せず、時によっては状況を悪化させる結果にもなっています。
海藻を移植する手法も使用されましたが、海藻の生息環境等を考慮する必要があります。
生まれ育った場所を考えずに海藻を移植することもまた、適切な方法ではないと考えられています。
阿久根市では、現在、ウニの生息密度管理という観点で対策を行った結果、磯焼けからの回復効果が表れています。
ただ、これからも計画的に、かつ継続して実施しなければ、この回復効果は一時的なものとなる可能性も考えられます。
採捕した大量のウニの処分も、磯焼け対策のひとつとして、検討すべき問題です。
また、海藻類を食べるウニ以外の生き物が大量発生して磯焼けが起こった場合の対処方法も、これからの課題です。
ウニの処分に関しては、現在は、ミカン農家に堆肥として引き取ってもらっています。
市は、同時に、農林業振興センターで、採捕した生のままのウニを簡単に堆肥化する試験を行っています。
ウニ以外の海藻類を食べる生き物には、海藻類を食べるイスズミやアイゴ(バリ)、ブダイなどの魚があげられます。
阿久根市周辺では、薩摩川内市の甑島付近に生息しており、これらの魚等による磯焼けも問題になっています。